2020.6.10

先日、大学院進学を志望している他大学の学部生の方がうちの研究室に見学に来てくれました。
その学生さんのこれまでの研究、大学院進学を考えている理由、これからやりたいこと、将来のこと、、いろいろな話を聞くことができて、とても楽しい時間でした。
僕からも、自分の研究スタイルや理念、哲学、将来的にやりたいこと、この研究室でできること・できないこと、大学院生の生活やスケジュールなど、うちのラボの紹介を時間をかけてさせてもらいました。
ただ、イチからすべて説明するのにけっこうな時間がかかってしまい、また僕が言いたかったことをすべて伝えきれなかったかもしれません。
そこで僕のラボの紹介をメモとして書き記すことで、今後見学に来てくれる方にはこのメモを読んでもらってから話をしたほうがスムーズかつ理解してもらえるかと思いました。
(自分の考えていることの整理や忘備録としても残しておこうと思います)
ラボ紹介をするうえでまず一番初めにしなければいけないこと。
それは「研究理念・哲学」の紹介です。
僕の研究理念は、
「Research for science, for animals, and for humans」です。

「For science」とは科学の発展のため、ということ。
このように書くと、研究者なんだから当たり前だと思われてしまうかもしれませんが、臨床の研究室だとこれが意外と軽視されていたりします。
つまり、臨床的に役に立つ(診断や治療に応用できる)研究以外はやる価値がない、と思っている臨床の先生が意外と多いと感じています。
そのような考え方も一理あると思いますし、否定はしません。
でも僕は臨床獣医師でもありますが、イチ研究者でもあります。なので何とか自分の研究が科学の発展に少しでも寄与できたらそれは僥倖ですし、常にそれを目指して研究をしています。
「将来すぐに役に立つ研究」よりも「今すぐには何の役に立つかわからない研究」のほうが将来ものすごくインパクトのある結果につながったりするのではないかと思っています(もちろん多くの研究は何の役にも立たないかもしれませんが、、)。
そして少しウェットな言い方ですが、後者の方が夢やロマンがあります。
そのため、僕は「役に立つ研究」はもちろんのこと、「夢のある、科学的におもしろいと思える研究」をしたいと考えています。
「For animals」とは実験動物や伴侶動物(ペット)のため。
僕の研究で重視していることのひとつに、伴侶動物(ペット)の犬や猫における臨床試験を常に目指していることがあげられます。
先ほどの「For science」で書いたこととは逆説的になりますが、僕は研究者でもあり臨床獣医師でもあるため、やはり自分の研究が「臨床的に役に立つ」ことも重視しています。
僕はいろいろな縁があって小動物臨床獣医師となりました。たくさんの人のおかげで一人前(?)の獣医師になれたと思っています。
その恩を研究で返したい。そう強く思っています。
自分の研究成果を獣医臨床に応用することができれば、新しい診断法や治療法を生み出すことができます。
つまり病気で困っているどうぶつたちを助けることにつながります。
さらには、その飼い主さんも助けることができます。
さらにさらに、伴侶動物の臨床試験を行うことで、動物実験を縮小することにもつながり、実験動物(マウスたち)の使用を減らすこともできるかもしれません。
現在、犬の移行上皮癌・前立腺癌そして猫の多発性嚢胞腎の臨床試験を進めております。
僕以外の東大の先生もその他の病気の臨床試験を行っています。詳細については下記のリンクをご参照ください。
協力してくださっている飼い主のみなさま、そして臨床試験に参加してくれているどうぶつたちには本当に感謝しております。
完全に治す、ということは難しいですが、副作用をできるだけ抑えながら効果的な治療ができるように日々チャレンジしています。
なによりうれしいのは、飼い主さんから「ありがとう」と感謝していただけること。
これは臨床に携わる人にしか味わえない貴重な経験ですし、研究・臨床のモチベーションもすごく上がります。
たくさんの飼い主さんからたくさんのお手紙をいただき、本当にいい出会いに恵まれているなと常々思います。
感謝の気持ちを忘れずに、これからも臨床試験を積極的に進めていこうと思います。

最後の「For humans」は医学・人間社会への貢献、ということです。
研究を進めていくためには、細胞株や実験動物(マウスなどのげっ歯類)を使った研究が必要不可欠ですが、僕はそれだけでは不十分だと考えています。
実験動物は無理やり病気を作り出す「モデル疾患」であることがほとんどであり、病気を自然に発症するヒトとは大きなギャップがあります。
そのためマウスで効果のあった薬剤がヒトの臨床試験ではまったく効かない、ということはよくある話です。 この問題を解決するために、僕はペットである犬や猫の臨床試験が重要であると考えています。
意外と知られていませんが、犬や猫は腫瘍や腎臓病などヒトとよく似た病気を自然に発症します(僕ら臨床獣医師の中では常識ですが、お医者さんの知り合いにこの話をするとよく驚かれます)。 つまり、人工的に病気を発症させた実験動物とはまったく異なる自然発症動物モデルとしてペットの犬や猫を捉えることができます。そしてこれは臨床獣医師の研究者にしかできない研究です。
細胞株や実験動物で効果の確認した新たな治療薬の候補を、いきなりヒトに投与するのではなく、その間に犬や猫の臨床試験を実施することで、ヒトに応用できるかどうかをより高精度に推測することができるのではないかと考えています。
三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)という哲学が商売や経営でよく言われますが、研究においてもまったく同じことが当てはまります。
「For science」
「For animals」
「For humans」
このWin-Win-Win(三方よし)を目指して、チャレンジングな研究をこれからも進めていきたいです。

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