犬の移行上皮癌に対する新しい治療法の論文が公開されました!

更新日:1月18日

2022.1.13



本日2022年1月13日に犬の移行上皮癌に対する新しい治療法を確立した論文がScientific Reports誌に掲載されました!





論文のリンクはこちら


東京大学からのプレスリリースはこちらになります(日本語でくわしく説明しています)。


いくつか報道もしていただけました()。





今回の論文は2017年から開始していた「犬の移行上皮癌に対するラパチニブの臨床試験」の結果をまとめたものです。


2019年に臨床試験の募集は締め切っていましたが、その後も経過観察は続いていて、現時点でもまだ元気に過ごしてくれているこもいます。

(論文のデータは2021年で一区切りとしてまとめています)



一番長く続けているこは治療開始から1150日(3年以上!)を超えていて、うまく薬が効いてくれればかなり長期間の延命効果が期待できそうです。





もうひとつとても重要な点として、副作用が従来の抗がん剤と比べてかなり少ないことがあります。

今回調べた結果では、ラパチニブを投与した症例の約80%で何かしらの副作用がみられましたが、多くは軽度なものでした。



ラパチニブは肝臓の数値が上がりやすいという特徴はありますが、それも軽度なものがほとんどです。肝機能低下に至るほどの肝障害はほとんどみられませんでした。



さらに腎臓への副作用はほとんどないというデータも今回の臨床試験で得られました。

移行上皮癌は尿路(おしっこの通り道)にできるがんですので、腎機能の低下が問題となることが多いので、腎臓への影響が少ないラパチニブは非常に使いやすい治療薬となると考えています。




以下に今回の論文の重要な点をまとめます。



ラパチニブはHER2と呼ばれる分子をターゲットとする薬剤

これまでの僕たちの研究により、犬の移行上皮癌(膀胱がん、尿道がん、前立腺がん)の腫瘍細胞がHER2と呼ばれる分子をたくさん持っていることがわかっていました。


HER2はがん遺伝子として知られている分子で、この分子が異常に活性化すると細胞の増殖や生存を促進することがわかっています。さらに、HER2の活性化は血管新生やがんの転移にも重要とされています。


今回の臨床試験で使用したラパチニブ(商品名:タイケルブ®)という薬は、このHER2を特異的に阻害する薬です。



ラパチニブを投与した試験群では従来の治療よりも生存期間が約2倍に延長

今回の臨床試験では、移行上皮癌の犬を2つのグループに分け、1つは標準的に用いられるピロキシカムという薬剤を単独で投与し、もう1つのグループはラパチニブとピロキシカムを併用して投与しました。


その結果、ピロキシカム単独群では10%程度の犬でがんの縮小がみられたのに対し、ラパチニブ併用群では50%を超える犬でがんの縮小がみられました。


さらに生存期間はピロキシカム単独群と比べてラパチニブ併用群の方が2倍以上の延長が認められました。



尿中がん細胞を使ったHER2検査により予後を予測

移行上皮癌の犬の尿にはがん細胞が含まれています。

そのため尿を用いてHER2タンパク質発現とHER2遺伝子増幅の有無を免疫染色とデジタルPCRによりそれぞれ評価しました。その結果、60%以上の症例でHER2タンパク質の過剰発現が、30%の症例でHER2遺伝子増幅が検出されました。


さらにラパチニブを投与した移行上皮癌の犬において、HER2過剰発現またはHER2遺伝子増幅を認めた症例では認めなかった症例と比べて生存期間が長いことがわかりました。


この結果は、尿を用いたHER2検査を実施することで、ラパチニブの有効性を予測する事前に予測できるということを示しています。


HER2遺伝子増幅を調べる検査は、カホテクノという検査会社で外注することができます。

https://www.kahotechno.co.jp/








2008年にマシチニブ、2009年にトセラニブという分子標的薬がアメリカで承認されてから10年以上が経ちますが、獣医療でがんに対する分子標的薬で有望なものはほとんど出ていないのが現状でした。



今回の研究で「ラパチニブ」という分子標的薬が獣医療における新たな選択肢となることを示すことができました。



ヒト医学と同じように、獣医療でもこれから分子標的治療薬の時代がいよいよ本格的に到来すると思います。




その新たな時代の幕開けのときに、この論文を出せたことはとてもうれしいです!!






今回の研究を実施できたのは、共著者の先生方、ラボのみんな、研修医さん、VMCスタッフのみなさん、症例を紹介していただいた先生方、そして臨床試験に参加してくださったわんこたちと飼い主さんのおかげです。




本当にありがとうございました!!!







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